「営業がうまくいかない」を、個人の問題にしない
営業成果にばらつきがあるとき、原因は担当者個人に求められがちです。 経験が足りない。スキルが足りない。もっと数をこなすべきだ。
ただ、同じことが担当者が変わっても繰り返されるのであれば、それは個人の問題ではありません。
私はいま、Webマーケティングの仕事と並行して、インサイドセールスの実務にも携わっています。 実際に電話をかけながら感じたのは、判断の基準が共有されていないと、誰が担当しても同じところで詰まるということでした。
そして属人化は、漠然とどこかにあるのではなく、現れる場所が決まっています。 ここからは、その5つを順に見ていきます。
場所①|営業プロセス
こうなっていたら、この場所です
- 担当者によって、顧客への質問内容やヒアリングの順番が違う
- 「いつ商品説明や提案に進むか」が、担当者個人の感覚に任されている
- 基本的な流れはあるが、現場では人によって進め方がかなり違う
何が起きているか
多くの場合、営業の流れ自体は存在します。 ヒアリング、提案、クロージング。ステップの名前は決まっています。
決まっていないのは、そのステップを次へ進めてよい条件のほうです。
「ヒアリングが終わったら提案へ」と書いてあっても、どこまで聞けば「終わった」ことになるのかが決まっていなければ、 判断するのは担当者本人です。だから人によって進め方が変わります。
整理の第一歩
各ステップに、「ここまで確認できたら次へ進む」という条件を1行ずつ書き足してみてください。
ステップ名 → 次へ進む条件
ステップを増やす必要はありません。すでにある流れに、条件を足すだけで十分です。
場所②|会話中の判断基準
こうなっていたら、この場所です
- 断られたとき、「もう一歩聞くか」「終了するか」の判断が担当者任せになっている
- 顧客の反応に対して、次に何を質問するかが個人の経験に依存している
- 「今の反応なら提案してよいのか」で迷う場面が多い
何が起きているか
トークスクリプトには、「次に何を言うか」しか書かれていません。
しかし実際の会話で必要になるのは、その手前にある判断です。 相手が「今は必要ない」と言ったとき、ここで終わるのか、もう一問聞くのか、聞くなら何を聞くのか。 台本には、その答えがありません。
判断は、音にならない。
だから、台本にも残らない。
成果を出している人の会話を聞いても、聞こえるのは話している内容だけです。 その裏で何を判断しているかは、外からは見えません。
整理の第一歩
よくある顧客の反応を5つだけ書き出してください。 そして、それぞれに「次に確認すること」を1つ決めます。
すべての反応を網羅する必要はありません。頻度の高い5つから始めるだけで、迷う場面はかなり減ります。
場所③|トップセールスの暗黙知
こうなっていたら、この場所です
- 成果を出している担当者が、なぜ成果を出せているのかを組織として説明できない
- トップセールスの判断や進め方が、本人の感覚の中に留まっている
- 成功しているトークを共有しても、他の担当者に再現されない
何が起きているか
「トップセールスのトークを共有しよう」という取り組みは、よく行われています。 それでも再現されないことが多いのは、共有しているものが「話し方」だからかもしれません。
同じ言葉を使っても、使う場面の判断が違えば結果は変わります。 コピーすべきなのは、話し方ではなく判断のほうです。
整理の第一歩
トップセールスに聞くとき、「どうやっているんですか」と広く聞かないことをおすすめします。 この聞き方だと、多くの場合「感覚ですね」で終わります。
代わりに、具体的な場面を指して聞きます。
- この反応のとき、何を聞きますか
- どこまで深掘りしますか
- どこで見切りますか
- どの条件なら提案に進みますか
うまくいった商談より、判断が分かれた場面や、見切った場面を聞くほうが、基準は出てきやすくなります。
場所④|見込み判定・次回アクション
こうなっていたら、この場所です
- 「見込みあり」と判断する基準が、担当者によって違う
- 再度連絡する顧客と、追わない顧客の線引きが明確でない
- 次回連絡の目的が曖昧なまま、「また連絡します」で終わることがある
何が起きているか
見込み判定の基準がそろっていないと、困るのは現場だけではありません。 報告された数字を比べられなくなります。
ある担当者の「見込みあり10件」と、別の担当者の「見込みあり10件」が、 同じ意味を持たないからです。この状態では、営業管理の判断材料になりません。
整理の第一歩
「見込みあり」と言える条件を3つ決めてください。多くする必要はありません。
あわせて、次回連絡には必ず「何を確認するための連絡か」を一行書き残すようにします。 目的のない再連絡は、かける側も受ける側も負担になります。
場所⑤|新人育成・営業教育
こうなっていたら、この場所です
- 新人や経験の浅い担当者が、「次に何を聞けばいいか」で迷うことが多い
- 研修やトークスクリプトを渡しても、実際の会話で使いこなせていない
- 一定水準になるまで、先輩や管理者の個別フォローが多く必要になる
何が起きているか
渡しているのは台本で、現場で必要なのは判断の手がかりだからです。
台本は、会話が想定どおりに進んだときには機能します。 しかし実際の会話は想定どおりには進みません。そこから先が、新人がいちばん困る場所です。
整理の第一歩
新人がつまずいた場面を記録してください。
「どこで止まったか」が分かると、そこが言語化されていない判断の場所だと分かります。 育成のための資料を新しく作るより、この記録のほうが早く、正確です。
どこから手をつけるか
5つ挙げましたが、すべてに一度に取り組む必要はありません。 むしろ、同時に進めると中途半端になりやすいと感じています。
選ぶ基準はひとつです。
「担当者によって答えが違う」ものから、
先に手をつける。
答えが分かれているということは、そこに基準がないということです。 基準を決めるだけで変わる部分なので、整理の効果がいちばん見えやすくなります。
逆に、すでに社内で答えがそろっている部分は、いま急いで言語化しなくても困りません。
よくある質問
- Q. 営業を標準化すると、担当者の個性がなくなりませんか? 標準化するのは判断の枠組みであって、話し方ではありません。何を確認すべきかが決まっていれば、どう伝えるかは担当者に委ねられます。会話中の迷いが減る分、その人らしい進め方に集中しやすくなる面もあります。
- Q. トップセールスに聞いても「感覚です」と言われてしまいます。 「どうやっているか」と広く聞くより、「あの場面でなぜそう判断したのか」と具体的な場面を指して聞くほうが言葉になりやすいです。うまくいった商談より、判断が分かれた場面や見切った場面を聞くと、基準が出てくることがあります。
- Q. 営業プロセスを仕組みにすれば、成果は上がりますか? 成果が上がると断言することはできません。判断基準を整理して改善が期待できるのは、担当者ごとのばらつきや会話中の迷いといった部分です。商材や市場の要因まで解決できるものではありません。
まとめ|整理すべきは人ではなく、判断のほう
営業の属人化は、「誰が優秀か」という話ではありません。
判断の基準が、個人の中にしかない状態のことです。
基準が共有されていなければ、経験の浅い人はその場で考えるしかなくなります。 そして成果を出している人の判断は、本人の中に残ったまま組織には渡りません。
だから、整理すべきなのは人ではなく、判断のほうだと考えています。
今回挙げた5つのうち、ひとつでも「うちも当てはまるかもしれない」と思う場所があれば、 そこから書き出してみてください。資料を作るより先に、条件を一行決めるだけで十分です。